Exastroにかける夢

開発者メッセージ

――変わらない思想が、AIによって新しい可能性を手にする。

吉田 功一 日本電気株式会社 インフラSIサービス統括部 シニアマネージャー

システムはどんどん複雑化し、人材はどんどん減ってゆく

私たちの暮らしや企業活動を支えるITシステムは、進化を続けています。社会がITに求める役割は広がり、システムは大規模化・複雑化し、その変化のスピードも増すばかりです。

一方で、それを支えるシステムエンジニアの人材不足は深刻さを増しています。

業務が増え続けるのに、人材が不足すれば何が起こるでしょうか。今いるエンジニアに負担が集中し、疲弊していくことは目に見えています。そして、そんな先輩たちの姿を見た若い人たちは、果たして「自分もシステムエンジニアになりたい」と思うでしょうか。

私は、この負の連鎖を何とかしたいと考えてきました。

本来、ITは人々の暮らしや仕事を便利にし、豊かにするためのものです。そのITを生み出し、支えているエンジニア自身が、非効率な作業に追われ続けているとしたら、どこかおかしいのではないでしょうか。

誰が見てもかっこいいと思える、スマートな働き方を実現したい。

そして、エンジニアが日々の作業に追われるのではなく、知恵と創造力を発揮し、新しい価値を生み出すことに力を注げる世界をつくりたい。

それが、Exastroを開発してきた原点です。

開発のきっかけ

違和感――スマートな世界を支えるエンジニアの働き方は、スマートじゃなかった?

初めてシステム開発・構築のプロジェクトに携わったとき、私はITの最先端を担う仕事に大きな期待を抱いていました。

ところが、実際に飛び込んだ現場は、想像していたものとは違いました。

システムの設計情報はExcelなどのファイルに散在し、設定作業は手動で行われ、作業の品質は担当者の知識や経験に大きく左右される。膨大な時間をかけて確認し、慎重に作業しても、人間である以上、ミスを完全になくすことはできません。

高度なITシステムを作っているのに、その作り方は驚くほどアナログだったのです。

もっとも、当時はそれが当たり前でした。私自身も、そのやり方の中で経験を積み、技術を磨いていました。

しかし、その当たり前が通用しなくなる出来事が起こります。

限界を超えた決定的なできごと

2010年から2015年にかけて、日本では携帯電話がガラケーからスマートフォンへと急速に移行しました。

通信キャリアのシステムを担当していた私たちは、爆発的に増加する通信需要に対応するため、毎日のように機器の増設や設定変更を繰り返していました。

やがて、それまで人手で何とか維持してきた仕組みに限界が訪れます。

属人的に管理されていたシステムの構成情報は次第に不明確になり、設定ミスが多発する。ミスを防ぐためにレビューを増やすと、今度は作業工程がさらに複雑になり、時間がかかる。

品質を守ろうとすればするほど、人手が必要になる。

人手が足りないから、一人ひとりの負担が増える。

負担が増えることで、またミスが発生する。

まさに負の連鎖でした。

この経験を通じて、私は一つのことを痛感しました。

人間が頑張ることを前提にした仕事の進め方では、進化し続けるITシステムを、いつか支えきれなくなる。

必要なのは、作業を少しずつ効率化することではありません。仕事の進め方そのものを変えることでした。

自動化の前に、変えなければならないことがあった

最初に取り組んだのは、作業を自動化することではありませんでした。

ヒューマンエラーの原因となっていた、システム構成情報の管理を見直すことでした。

それまで担当者の頭の中や、さまざまなファイルに分散していた情報を一元管理し、誰もが同じ情報を使って仕事を進められる仕組みを作りました。

すると、少しずつ変化が生まれました。

情報を探し回る必要がなくなる。担当者によって作業内容が変わることが減る。構成情報をもとに、作業手順や設定値を生成することもできるようになる。

情報の管理方法を変えることが、仕事の進め方そのものを変えるきっかけになったのです。

ここから、Exastroにつながる考え方が生まれました。

システムの設計情報や構成情報は、人間が参照するためだけの資料であってはならない。それ自体が、システムを構築し、変更し、運用するために活用できる情報資産であるべきだ。

そして、自動化すべきなのは、単なる手作業の置き換えではありません。

人の経験に頼ってきた仕事を標準化し、その知識を仕組みとして蓄積し、何度でも正確に再利用できるようにすることです。

この考え方をもとに、構成情報の一元管理、設定値と作業手順の分離、自動化部品の再利用、作業の実行管理といった仕組みを積み上げてきました。

2015年頃には、こうした課題は通信キャリアだけのものではなく、IT業界全体に共通するものだと考えるようになりました。

誰もが汎用的に利用できる仕組みとして発展させたい。

その思いがExastroの開発へとつながり、2019年にはExastro IT AutomationをOSSとして公開しました。

そして今、AIの時代がやってきた

2020年代に入り、生成AI、そしてAgentic AIが急速な進化を遂げています。

人間が自然言語で目的を伝えると、AIがその意図を理解し、必要な情報を調べ、実現手段を考える。

これまで人間にしかできないと思われていた知的な作業の一部を、AIが担える時代になろうとしています。

この技術の進化を目の当たりにして、私は大きな可能性を感じると同時に、あることに気づきました。

Exastroが長年追求してきた設計思想は、実はAIが力を発揮するためにも、極めて重要なものだったのです。

もちろん、Exastroの開発を始めた当時から、今日のようなAgentic AIの登場を予見していたわけではありません。

ただ、私たちが現場の課題を解決するために積み重ねてきたことを振り返ると、そこには一貫した思想がありました。

人間の頭の中にある知識を、デジタル化すること。

システムの状態や構成を、機械が扱える情報として整理すること。

属人的な作業を標準化し、繰り返し再利用できるようにすること。

そして、誰が、いつ、何を、どのように実行したのかを管理し、作業の安全性と再現性を確保すること。

これらはすべて、AIがシステムの状況を理解し、適切な作業を計画し、実際のシステムに働きかけるためにも欠かせない要素です。

AIがどれほど賢くなっても、システムの構成情報が散在し、作業手順が属人化し、実行結果を追跡できないような環境では、大切なシステムの操作を安心して任せることはできません。

むしろ、AIの能力が高まるほど、その判断を確実な実行へつなげるための土台が重要になります。

考えてみれば、私たちが目指していたのは、初めから単なる作業の自動化ではなかったのです。

人間の知識や経験を、特定の個人に依存しない、再利用可能な仕組みに変えること。

その思想が、AIの登場によって、これまで以上に大きな意味を持ち始めたのだと思います。

Agentic AI for Exastro――自動化の、その先へ

これまでの自動化では、何を、どの順番で、どのように実行するかを、基本的には人間が考えていました。

そのため、自動化を広げようとすればするほど、自動化の仕組みを設計・実装できる専門人材が必要になりました。

これは、自動化を推進するうえでの新たな壁でもありました。

Agentic AIは、この壁を越える可能性を秘めています。

例えば、エンジニアが「このサーバ群にWebサービスを構築したい」と目的を伝えると、AIが必要な構成や作業を考え、既存の自動化部品を探し、実行手順を組み立てる。

Exastroは、それらを実際のシステムに適用するために、構成情報や設定値を管理し、必要な確認・承認を経て、安全で再現性のある形で実行する。

人間が目的を伝え、AIが考え、Exastroが統制して実行する。

これが、Agentic AI for Exastroで目指している世界です。

ただし、ここで重要なのは、何もかもAIに任せることではありません。

AIは優れた判断を示すこともありますが、間違えることもあります。だからこそ、あらかじめ検証された自動化部品を活用し、実行する内容や対象を確認し、結果を追跡できることが大切です。

AIの柔軟な判断力と、Exastroが積み上げてきた自動化の確実性・再現性を組み合わせる。

両者は競合するものではなく、互いの強みを補い合う関係にあります。

そして私は、この組み合わせには、さらに大きな可能性があると考えています。

未知を既知に変え、知識を積み重ねる

例えば、システム運用において、過去に経験したことのない障害が発生したとします。

従来であれば、熟練したエンジニアが調査し、原因を突き止め、対処方法を考えていました。

これからは、そのプロセスをAIが支援できるようになります。

しかし、本当に重要なのは、その先です。

AIの支援によって見いだした原因や対処方法を、人間が検証し、再利用可能な知識として蓄積する。そして、次に同じ事象が起こったときには、もはや未知の障害として扱う必要がないようにする。

一度経験したことを、二度と同じ苦労をせずに対処できる仕組みへと変えていくのです。

未知の事象を、既知の事象へ。

人間の経験を、組織の知識へ。

組織の知識を、再利用可能な自動化へ。

この循環を繰り返すことで、システム運用は経験を重ねるほど、より効率的で、より安定したものへと進化していきます。

自動化を増やすだけでなく、自動化できる領域そのものを、継続的に広げていく。

私は、ここにAIとExastroが融合することの本当の価値があると考えています。

OSSであることへのこだわり

Exastroは、企業の中で開発されたソフトウェアです。

それなのに、なぜOSSとして公開するのでしょうか。

私は、ITシステムを支える現場の課題は、特定の企業だけで解決すべきものではないと考えています。

通信、金融、製造、流通、公共サービス。社会のあらゆるところでITシステムが利用され、その裏側では多くのエンジニアが日々苦労しています。

システムが複雑化し続ける一方で、人材が不足していくという課題は、業界全体、さらには社会全体の課題です。

だからこそ、解決のための仕組みは、できるだけ多くの人が自由に利用できるものであってほしい。

AIの時代になり、この思いは一層強くなりました。

AIによる高度なシステム構築・運用を、一部の大企業や、限られた専門家だけのものにしたくありません。

誰もが自分たちの環境で試し、改善し、育てていけること。

そして、世界中のエンジニアが生み出した知恵や工夫を、互いに活かせること。

そうした技術と知識の広がりが、IT業界全体の働き方を変えていく力になると信じています。

ExastroがOSSであり続けることには、そんな思いを込めています。

安定したルーティーンを変える勇気

「今までこのやり方で問題なくやってきたのに、なぜ変える必要があるのか」

システムを安全に動かし続ける責任を持つ人にとって、そう考えるのは自然なことだと思います。

私自身も、その気持ちはよく理解できます。

しかし、今のやり方で何とかなるからといって、将来も同じように続けられるとは限りません。

私たちが自動化に本格的に取り組んだのも、従来のやり方が限界を迎えたことがきっかけでした。

あのとき、もっと早く変えていれば、どれだけ多くの苦労を減らせただろうか。そんな思いがあります。

AIの活用にも、同じことが言えるのではないでしょうか。

もちろん、AIを導入すれば、すべての問題が解決するわけではありません。新しい技術には新しいリスクがあり、慎重な検証も必要です。

だからこそ、既存の仕組みをすべて捨て去るのではなく、積み上げてきた知識や技術を活かしながら、一歩ずつ進化させていくことが大切だと思います。

Exastro自身も、そうやって進化してきました。

そして、これからもそうありたいと考えています。

最後に――Exastroに興味を持っていただいた方々へ

Exastroの開発に取り組み始めてから、10年以上が経ちました。

その間、ITを取り巻く環境は大きく変化しました。

当時は想像もできなかったような能力を持つAIが登場し、エンジニアの仕事のあり方も、大きく変わろうとしています。

しかし、私がExastroを通じて実現したいと考えてきたことは、今も変わっていません。

システムが複雑化するたびに、人間がその複雑さを背負い込み、より多くの時間と労力を費やさなければならない。

そんな世界を変えたいのです。

一度得た知識や経験は、仕組みとして蓄積され、次の仕事に活かされる。

繰り返しの作業は自動化され、エンジニアは新しい課題に向き合い、新しい価値を生み出すことに集中できる。

そして、システムが進化するほど、それを支える仕組みもまた、賢く、強く、効率的になっていく。

そんな世界を実現したいと考えています。

AIの登場によって、Exastroの目指す方向が変わったわけではありません。

むしろ、長年追求してきた思想を、さらに高い次元で実現できる可能性が広がったのです。

これからが本当に楽しみです。

エンジニアが、もっと創造的に、もっと自由に、もっとスマートに働ける未来へ。

Exastroを通じて、みんなで「かっこいいエンジニア」を実現していきましょう。

吉田 功一

日本電気株式会社 インフラSIサービス統括部 シニアマネージャー

吉田 功一

2006年入社。京都大学大学院エネルギー科学研究科卒業。
NEC入社後、主に大規模通信キャリアのシステムアーキテクチャー設計、開発プロセス設計、運用プロセス設計に従事。
システムエンジニアとして多忙な日々を過ごす傍ら、システムというデジタルなものを作り出すはずの業務が「アナログ・手動・非効率」であることを課題と捉え、2015年頃より「システム開発・構築・運用」の「デジタル化・自動化・効率化」への取り組みを始動。2019年にExastro Suiteの最初のソフトウェアであるIT AutomationをOSS(オープンソースソフトウェア)として公開。2022年より現職。