DXの実現

DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現が叫ばれて久しいですが、号令ばかりでなかなかDXが進められないと感じられていることも多いのではないでしょうか。DXは単なるIT化とは異なり既存のビジネスモデルからの変革も求められます。これまでのビジネスが成功している企業組織ほど変革には痛みが伴うため、内部に変化に対する「抵抗勢力」ができてしまい、いわゆる「文化」を変えていくことができないでいることも多いのではないでしょうか。経済産業省は2019年に「経営者や社内の関係者がDXの推進に向けた現状や課題に対する認識を共有し、アクションにつなげるための気付きの機会を提供するものとして、「DX推進指標」を策定」しています。現在ではIPAがガイドラインに基づいて自己診断が行えるサイトを公開しています。

これらの指標は、自社がどの程度DXを実現できているかの判断に資するものであるので、是非とも活用してもらえればと思います。

DXにおけるITシステムの役割

DX推進指標では、DXを実現するためのITシステムの定性的な指標として大きく以下の2つの指標を定めています。  ◆ビジョン実現の基盤としてのITシステムの構築  ◆ガバナンス・体制

「DX 推進指標」の構成

※図:経済産業省『「DX 推進指標」とそのガイダンス』 P8 図2 「DX 推進指標」の構成 より引用

単純に言えば、どのようなシステムを、誰がどのように構築・運用するか、ということになります。 そして、ITシステムに求められる要素として3点を挙げています。

【1】データ活用

データをリアルタイム等使いたい形で使えるか

【2】スピード・アジリティ

変化に迅速に対応できるデリバリースピードを実現できるか

【3】全体最適

データを、部門を超えて全社最適で活用できるか

  • 【1】はビッグデータやデータウェアハウス、データレイクなどのように、企業組織内にあるデータをフル活用することを求めています。
  • 【2】はアプリケーションを迅速に開発するために、アジャイルな開発やCI/CD、DevOpsを実現すること。さらにはノーコードやローコード開発などが当てはまります。
  • 【3】は個別最適されてサイロ化しがちなシステムをデータ連携やAPI指向設計などでシステム連携可能な状態にすることを指しています。

いずれも、従来のようにバラバラにシステムを構築していては実現できないことであり、この事だけでも変化が要求されていることが分かるのではないでしょうか。

DX実現のための取り組み

DXを実現するために、上に挙げた3つの要素それぞれに応じた取り組みと、また各要素を横断した取り組みを考える必要があるでしょう。

  • 【1】データ活用は、今あるデータの洗い出しや活用方法を考えるところから始め、新たに開発するアプリケーションでどのようにデータを収集、活用していくかという取り組みになるでしょう。
  • 【2】スピード・アジリティは、既存システムのクラウド化も含めたシステム基盤の構築、そしてこれまで手動で行っていた作業の自動化による作業効率の向上。アジャイルな開発やDevOpsなどへの取り組みが必要になります。
  • 【3】全体最適は、既存システム間のデータ連携やAPI連携をシステム改修を交えながら実現していくことになります。

どの要素も相互に関係しているので、「DX推進指標」に挙げられている「IT資産の分析・評価」や「IT資産の仕分けとプランニング」といった行動が重要となってきます。これらも1回行えば終わりではなく、継続的に行っていく必要があるでしょう。

DX人材の確保と生産性向上

DX実現のために必要とされるIT技術を持った人材の確保が難しいというのが現在の大きな課題でしょう。急速にDX需要が高まったこともありますが、既存のITエンジニアの生産性が低かったことも原因の一つといえます。

これまでのITエンジニアは、スピード・アジリティを要求されることがなかったため、多くの作業を手作業で行っていました。しかし、手作業はスピードの点はもちろん、ミスが起きること、属人性が高くなることなどの課題があるため、DX実現のために多くのシステムを作る需要に応えることができません。そのため、主にシステム基盤を担当するインフラエンジニアを中心に作業を「自動化」する傾向が強まってきています。

インフラの自動化

プログラム(コード)でインフラを扱うことから「Infrastructure as Code」(IaC)と呼ばれる技術が重要になりつつあります。さらにアプリケーション開発を自動化する「CI/CD」(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)を組み合わせて、開発と運用を一体化させる「DevOps」を実現することが必要となってきています。自動化を行うことで、DX需要に応えることができるのはもちろん、エンジニアの生産性向上、すなわち作業時間短縮による余剰時間が確保でき、貴重な戦力をより戦略立案やビジネスを支えるITシステムを考える事に振り向けることができます。新しく人材を採用しても、作業効率が低いままではDXは実現できません。自動化は今後のITシステムにおいて外すことができない重要な技術であるといえるでしょう。

宮原 徹
日本仮想化技術株式会社 代表取締役兼CEO
宮原 徹
2006年に日本仮想化技術(株)を設立し、仮想化技術に関する情報発信とコンサルティングを行う。現在は自動化、CI/CD・DevOpsなどの活用について調査・研究を行っている。